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2017.01.04 UP

演劇ライター・三浦真紀さんの特別コラム ≪その3≫

演じた役の代表曲で、とことんドラマを演じてもらおう!の巻

 

昨年の『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート』で、素晴らしすぎて心身が吹き飛ばされそうになったのが、各キャストが過去に演じた役の曲を歌う場面だ。ミュージカル俳優の表現力は並大抵ではなく、観る者を打ちのめした。「すごいものを観た」とあちらこちらで評判になった、“怒涛の代表曲タイム”だ。
ミュージカル俳優による歌唱は、どこが特別なのか。別に、普通の歌手と大して変わらないのでは?と、思われている方が多いかもしれない。そんな方はぜひ、『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート』で、ご自分の目で確かめて頂きたい。

一般の歌手が自分自身の思いを歌に託したり表したりするのに対し、ミュージカル俳優は役として歌う。つまり一曲の背景には、壮大な物語が存在するわけだ。歌詞はセリフであり、歌は役の心情を吐露する手段。数分間の歌が一編のドラマとして成り立つのだ。
興味深いのは、その作品の衣裳やメイク、セットがなくても、強く伝わるものがあることだ。ミュージカル本編を観たことのある人は情景が鮮やかに蘇るだろう。観たことのない人でもストーリーを想像できたり、何か特別なものを観た感じがするだろう。ミュージカル俳優が演じる一編のドラマ、それが一曲数分間にギュッと凝縮されている。

たとえば、ロベール・マリアンが歌う「ヴァルジャンの独白」(『レ・ミゼラブル』より)。この曲で、教会の燭台を盗んだジャン・ヴァルジャンは、司教に赦されたことで、今までの自分を悔い改め、生まれ変わることを決意する。ロベールはヴァルジャンとして我が道を振り返り、逡巡し、ラストの高音で慟哭する。人生を変える瞬間、その途方もないパワーが爆発するのだ。
ハワード・マクギリンの「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」(『オペラ座の怪人』より)も、鳥肌が立った。ハワードは普段、明るく洒脱で、古き良きブロードウェイ・スタイルを受け継いだ雰囲気だが、この曲を歌い出すとまるで別人。叙情的で深く謎めいた歌声で、聴く者に語りかけてくる。まるで、オペラ座の地下で怪人がクリスティーヌに語るように。
マット・ローランの「踊って、僕のエスメラルダ」(『ノートルダム・ド・パリ』より)も同様、彼の嘆きは愛するエスメラルダを失くした、カジモドのもので、その切なさが胸に刺さる。
ロベールもハワードもマットも、これまで繰り返し演じた役ゆえに、イントロが流れた途端、役になりきることができる。これはミュージカル俳優ならではの特性といえるだろう。2017年、新たに参加する3人も自らの持ち役の曲で、私たちを魅了してくれるはずだ。

歌唱が終わり、客席がシーンと静まり返る一瞬の後、嵐のような喝采が沸き起こる。あの空気感は劇場で、その時間を共有する人々のみが味わえる特別なギフト。豊かな新年のスタートを肌で感じられる、お年玉なのだ。

前回公演『ニューイヤー・ミュージカル・コンサート2016』より Photo:下坂敦俊