Columnバックステージツアーコラム

第2回「観やすい、聴きやすい、演じやすい」の理由。

舞台上から客席を眺めて、その光景にしばし見入る!

 いよいよ、劇場内へ。人気のないホールは物音一つせず、渋谷のど真ん中とは思えない静けさです。これはビルの鉄骨の壁の間に遮音ゴムが入っているから。下にはヒカリエホールというイベントホールがあり、お互い音が漏れない設計になっているとか。劇場内の壁は空の青と雲の白、天井は雲をイメージした白で彩られています。地上から舞台の高さまで約70mもある、まさに“宙空の劇場”にふさわしいデザイン!

 客席に座って、お話を聞きました。シアターオーブを作る際に「観やすい、聴きやすい、演じやすい」と3つの目標が掲げられていたとか。
 まず「観やすい」は、座席の位置。客席数は3階席まで合わせて1972席。2000席規模の劇場としては、舞台と客席が近いのですね。舞台の一番前から1階の一番後ろの席までの距離が約29m。オーチャードホールが2150席で約39m、シアターコクーンが747席で約25mですから、座席数に比べて距離が近く作られているのがよくわかります。また、センターブロックの客席は前の席と半分ずつずらして配置してあるのも、観やすさの秘訣です。

客席はセンターブロックとサイドブロックを比べると、配置の仕方が異なることがよくわかる。

 次に「聴きやすい」。客席に座っていて聴こえる音は2種類。スピーカーからまっすぐに聴こえる音と、スピーカーから出た音が壁や天井に跳ね返って、やや遅れて聴こえる音。この遅れて聴こえる音の時間差で余韻や響きが起きるのだそうです。クラシック専用ホールではこの余韻が長めになるように設計されており、時間にすると約1.8〜2秒。しかしミュージカルの場合、台詞や歌詞があるため、響きすぎると聴きとりにくくなってしまう。そこで少し短めの響きで1.6秒と、ちょうどいいバランスで考えられています。

 最後は「演じやすい」。客席から舞台が近いのと同様に、舞台から客席もが近いため、演者が観客の反応をダイレクトに感じられるのだとか。壁はよく見ると上部が内側に倒れたデザインで、高さのある2階席、3階席から集中して観られる作り。演者からも自然に観客に向いている印象を与えられます。

 こうして説明を伺うと、そうか、劇場って実に細かく配慮して作られているんだなぁと感心しきり。
 「さて、舞台に上がってみましょう!」の声に誘導されて、舞台上へ。思わず客席を見渡します。へえ、俳優さんたちにはこんな風景が見えているのね!本当に素晴らしい、特別な眺め。説明は舞台の設備へと続きます。

演劇ライター 三浦真紀