2015.05.25 UP
観劇レポート②
ケンタッキー州レキシントンで『天使にラブ・ソングを…(シスター・アクト)』を一足お先に観劇した。1886年に建てられたオペラハウスは、煉瓦造りの瀟洒な劇場だ。入り口のホールにはパネルの前で記念撮影できるようになっていた。サングラスやおもちゃのギターが用意され、次から次へと人々がノリよく撮影してるのがアメリカらしい。作品のハッピーさが伝播しているのかも。
肝心の作品は…といえば、最高!に尽きる。面白い、楽しいだけじゃない。普遍的な真実があちこちに隠されており、胸がつまる場面も多々あり。愛と友情、わかりあうことは人生に不可欠と教えてくれる。ノリの良い音楽を介して、自分もコーラスの一員になった気分。劇場内の一体感は格別だ。
まず冒頭でデロリスが「ファビュラス・ベイビー」を歌い出した途端、物語の中に連れ込まれる。主役のデロリスはエネルギッシュで大胆。パンチの効いた歌声が気持ちよい。愛人のカーティスもなかなかイカしている。「ホェン・アイ・ファインド・マイ・ベイビー」はメロディだけならいい男の歌だが、歌詞を聴くと自分勝手で、メロディの甘美さと歌詞の落差が笑いを誘う。3人の子分のポンコツぶりも半端ない。その点、警官のエディは真面目そう。何事にも真剣な分、汗かきなんだろうと勝手に推測。
一方、デロリスが匿われた修道院のシスターたちもそれぞれ個性的でチャーミングだ。ふくよかで天真爛漫なメアリー・パトリックはデロリスの出現に興味深々。シャイで初々しいメアリー・ロバートやお堅そうな最年長のシスター・ラザレスなど他のシスターたちにとっても、デロリスはどう見ても奇妙だろうに、色眼鏡で見ることはせずに信じ切っている。そのあたり聖職者の無垢さなのか。素性を知る修道院長がハラハラするのはもっともだ。修道院長は威厳があり高貴さすら漂う。クラブ歌手のデロリスと相容れるはずがない。
シスターたちの無垢さは、ある意味、浮世離れにも通じている。コーラスはどうしちゃったかと思うくらいにド下手!で大笑いしてしまう。修道院長は頭を抱えているが、本人たちには自覚がなさそう。それでもデロリスの歌声を初めて聴いた時、皆で素直に感動しているのが微笑ましい。
修道院長の提案でデロリスが歌を教えると、シスターたちはメキメキと上達する。同時に彼女らがイキイキしていくのが、手に取るようにわかる。バリバリ踊り、修道服もキラキラし始める…。
実はなぜあんなにシスターたちが踊れるようになり、キラキラした服を着るようになるのか不思議だった。ミュージカルだからと勝手に答えを出していたが、キャストや演出家の話を総合すると、シスターたちはデロリスのコピーだから、だそうだ。ほとんどのシスターは、エンタメ界の歌や踊りに触れたことがなく、デロリスの教えをそのまま体現している。デロリスのセンスそのままに育てられた、まさにデロリス・チルドレン!このことを知ると、2幕が一層深まって見える。中には昔とった杵柄とばかりに意外な才能を発揮するシスターもいるが、それが誰かはお楽しみに。
この時、主役デロリスを演じていたのは、ケリッサ・アリントン。圧倒的な歌唱力とコメディセンス、迫力がデロリスにぴったりだ。26歳の新星ディーヴァは、ミュー ジカルスターを夢見て、友達に勧められたオーディションで役を射止めた。デロリスについて、「地に足のついた人間で着飾っていない。自分自身であることが魅力」だと語る。デロリス役はほぼ出ずっぱりの上、歌も台詞も大声を出し続けなければいけないのが大変とか。それでも持ち前のパワーで日々、表現力に磨きをかけている。
修道院長のマギー・クレノン・リーバーグはオペラ出身。叙情的なメゾソプラノを聴かせてくれる。『サウンド・オブ・ミュージック』をはじめ、今まで修道女役を多く演じた経験あり。確かにマギーの品の良さは修道女に近いかも。
シスター・パトリック役のサラ・ミシェル・クックは素の天真爛漫さも体型も、この役のために生まれてきたような女の子だ。やはりこの役が夢だったとのことで、日本でも可愛く弾けてくれるはず。シスター・ロバート役のエミリー・ケイ・シュレイダーは清楚で愛らしさ満点。華奢な身体から発せられる力強いソロが心に刺さる。シスター・ラザールス役のナンシー・エヴァンスは素晴らしいコメディエンヌで、最年長の巧みを存分に発揮する。
男性陣も含め、カンパニーのチームワークが半端ないのは、作品のテーマゆえか。日本であの一体感が味わえる幸せ!そして贅沢!ぜひ劇場に足を運んで、デロリスが結ぶ愛と絆を体感してほしい。
演劇ライター 三浦真紀
©JOAN MARCUS