COLUMN

第2回映画史上最も多く観られた傑作!!

©nilz boehme

DVDはおろか、まだビデオも存在しなかった時代。気に入った映画を観るには、その都度上映館に駆けつけるしかなかった。映画評論家のおすぎをはじめ、「『ウエストサイド物語』は何十回も観たわ!」と言う人が少なくないのは、そういった追っかけの苦労をした上での話。筆者も47回までは数えている。
 あの映画の登場は間違いなく世界のエンタテイメント界を変えた。有名なところでは、野球に夢中だった少年たちがジャニー喜多川氏のもと「『ウエストサイド物語』のように歌って踊れるグループになろう」とジャニーズが結成されたこと。踊る男は女っぽい、といった偏見がかなり払拭されたのも嬉しい。偏見つながりで言うと、映画館の中でも巨大なスクリーンで上映されることが多かった本作。同じ「観た」という体験でも、ワンセグやタブレットなどの視聴と一緒にしてほしくないと思うのは私だけだろうか。
 振付のジェローム・ロビンスと共同監督を手がけたロバート・ワイズが「あれは私が発明したんだよ。『サウンド・オブ・ミュージック』でもやっているけど(笑)」と電話インタビューで教えてくれた、NYマンハッタン上空からカメラがズームで寄っていくと、当時再開発地区だった現在のリンカーンセンターあたりが映し出されるオープニングから始まって、息をつく暇もないような物語展開、名曲ぞろいの音楽、若さが弾けるダンスに「一体、今目にしたものは何!?」という思いで頭がクラクラする。そして、その正体が知りたくて、映画館に入り浸って何回も観るわけだが、ファンの間でも次第にひいきの役がハッキリしていったのが面白い。つまり、オールタイム・ベスト1はベルナルドを演じたジョージ・チャキリスだったが、筆者の場合は映画版にしか登場しないアイス役のタッカー・スミス。舞台版ではリフによってドクのドラッグストアで歌われる“クール”が、このアイスが中心となって低い天井のガレージで歌い踊られるシーンのカッコ良さたるや!あらゆるミュージカル映画のダンス場面の中でも断トツだ。と勝手に思っていたら、アンソロジー映画『ザッツ・ダンシング』でもとりあげられていたから、同意見の人も多いのだろう。
 ちなみに、そのアイスを経てより気になったのはベイビー・ジョン役のエリオット・フェルド。撮影当時16歳(!)だったという彼は、後年“バレエ・テック”といカンパニーを率いるほどになり、2回も取材させてもらった。「外での撮影が多かったから、体が冷えて踊りにくかったよ(笑)」。根っからのダンサーだった。

(佐藤友紀 ジャーナリスト)