INTERVIEW

佐渡裕氏 インタビュー
バーンスタインの最高傑作、『ウエスト・サイド・ストーリー』を語る

photo: Jun Wajda

 私が恩師であるレナード・バーンスタインと過ごしたのは、彼の最晩年にあたる数年間です。それだけに、私は彼の音楽人生の集大成の時期に立ち合う、という幸運に浴しました。
 私は子どもの頃から指揮者を目指していましたから、レナード・バーンスタインと言えば、私にとってカラヤンと並ぶ、世界最高の指揮者でした。
 でも一般の人にとっては、やはりバーンスタインと聞いて、最初に思い浮かべるのは彼が作曲した『ウエスト・サイド・ストーリー』でしょう。
『ウエスト・サイド・ストーリー』は、間違いなくバーンスタインの最高傑作です。この作品には、クラシック、ラテン、ジャズ、バレエ、とすべての音楽の「ヒットする要素」が、周到にちりばめられていて、世界中の人を夢中にさせるのも納得です。
 バーンスタインは指揮者として、様々なジャンルの音楽の楽譜を徹底的に読み込んでいましたから、『ウエスト・サイド・ストーリー』には、様々な名曲の感動的な要素がたくさん取り込まれています。
 でも、それは決して名曲のフレーズをそのまま使うのではありません。たったひとつ音を変えるだけで、まったく違う世界観を作れるのが、バーンスタインのすごさなのです。
 この作品には、音楽として演奏されるだけでなく、ミュージカルのストーリーを表現するための要素も盛り込まれています。
 人間社会の救いがたい対立を表現する不協和音、ド、ファ、ソが、若者達の抗争、暴力を象徴し、この作品の通底音として流れます。これが、オープニングで流れる音楽であり、『クール』です。
 けれど、暴力と対立が耐えない世界にあっても、夢を見て、恋をして、争いのない世界を信じる者もいる。そういう世界を表現するのは、不協和音の対極の楽曲で、それが『アメリカ』や『トゥナイト』です。作品全体のベースに不協和音があるからこそ、夢や憧れを象徴する、これらの明るく、メロディアスな曲が際立ち、私達の心を高く浮き上がらせてくれるのです。
 バーンスタインの高い音楽性があってこそのこの作品は、演奏する音楽家、ダンサー、シンガー、俳優、すべてのアーティストに、限界まで高度なテクニックを要求します。だからこそ、このミュージカルは時代を超えて、世界中の人々を惹きつける傑作であり続けるのです。
 バーンスタインの音楽世界を継承する者として、私もこの作品の魅力をたくさんの人達に体験してもらいたいと思っています。