Columnバックステージツアーコラム

第3回幅広い演出を可能にする、舞台機構と照明

 舞台に立って、設備の話を伺いました。驚いたのはこの舞台、床が全て組み床になっていて、一枚ずつバラバラに取り外せるのだとか。例えば、好きな場所に仮設のセリを置いて人や小道具を出す、また階段をつけて人が下から上がってくるなど出入りできるようにするなど、様々な演出に対応。位置が決まってしまう固定のセリとは違い、自由にレイアウトできるのが利点です。前方のオーケストラピットも上下に可動するので、舞台と同じ高さまであげて前舞台として使ったり、使わない時は客席を5列設置することも可能。そうか、舞台設備がフレキシブルであればあるほど、趣向を凝らした演出が可能になるのですね。

舞台床を取り外した様子。この下にセリを仕込むことができる。

 舞台上の天井の高さは約24m。24mというと、一般的に7階建てのビルに相当しますから、かなりの高さ!なぜこんなに高い天井が必要かというと、舞台転換の際、背景幕をそのまま上に吊り上げて丸ごと隠すから。つまり、舞台の倍以上の高さが必要になるというわけです。
 上を見上げると、「バトン」と呼ばれる無数の黒いパイプ。このバトンに幕やセットを吊り下げ、上下移動をすることで場面転換するんですね。実際に、ポスター3枚を吊ったバトンを降ろして見せてくれました。すごいスピードで床ギリギリに止まり、それも静か。あらかじめ高さと速度をプログラムすることで、ボタン一つで正確に操作できるのだそうです。バトン1本につき、1トンまで吊るせるというから、かなりの力持ち。舞台の前から奥まで、60本が設置されています。

見上げると、天井近くにバトンが多数渡っている。ポスターが遠くに見える。

ポスターが降りてきた!舞台すれすれにピタッと止まったのに感動。

 そして舞台を照らすための「照明ブリッジ」も天井近くにありました。かなりの高さで、その上を人が歩ける作りになっています。実際に照明スタッフが歩いて見せてくれましたが、高すぎて顔がわからない!やはり命綱は必須だそう。なぜ、この照明ブリッジがあるのかというと、俳優の立ち位置やセットに照明を当てる調整は、人の手でなされているのだとか。シーンによっては角度を変えて陰影を出したり、様々な色のフィルターをかぶせたり。多い時は数百台の照明機材を一台一台、初日が開くまで照明スタッフが繰り返し調整するそうです。

 他にも照明は、一人だけを明るくフォーカスするピンスポットライト、舞台を全体を明るく照らすフラッドライトなど。また「エリスポ」と呼ばれる照明は、模様がくり抜かれたアルミ板を差し込むと、その模様が映る仕組み。色を入れてぼかすなどの工夫で、場面に合わせた世界観を生み出すのだとか。こういった豆知識を教えてもらうと、観劇の際、これはあの照明を使っている!と、より楽しめそう。いやはや、舞台裏の世界は奥が深いです。

エリスポを使って、模様を映す。

演劇ライター 三浦真紀